「イプシロン、宇宙に飛びたつ」森田泰弘

 日本の宇宙開発の父である糸川英夫博士は、かつてこう言ったそうです。
 「諸外国の研究の行われていない将来の可能性に挑戦し、進んで世界の技術の第一線に立つことが大切である」と。
 糸川英夫博士が固体燃料を用いたペンシルロケットの飛行実験を行ったのが、1955年。
 日本の固体燃料ロケットは「世界の先を行こう」というチャレンジ精神を遺伝子として、独自に研究・開発を進め、ついに「MーVロケット」の完成(1997年)により世界最高性能にまで登りつめました。
 奇跡の生還を果たした小惑星探査機「はやぶさ」を打ち上げたのは記憶に新しく、このような小型の固体燃料ロケットで惑星探査ができるのは日本だけの技術なのです。
 そして、2013年9月14日には純国産最新鋭機のイプシロンが打ち上げられました。
 ガラパゴス携帯ならぬ、我が国独自に進化した固体燃料ロケット、ガラパゴスロケット。
 宇宙科学研究所(元東京大学宇宙航空研究所)以来、日本の固体燃料ロケットの最前線の研究者であり、イプシロンプロジェクトマネージャとしてこれからの日本の宇宙開発を牽引する著者による、ロケット開発の全貌。

 固体燃料ロケットというのは、液体燃料ロケット(HーⅡAとか)と違って、エンジンがありません。
 まあ、誤解を恐れずに言えば、花火みたいなものかな。
 半液体状の樹脂ポリブタジエン(燃料)に火薬の粒(酸化剤)を混ぜ、熱を加えて固めたのが推進薬です。
 いったん燃料に火をつけると、燃え尽きるまで止まりません。なんせエンジンがないからね。
 ですから、液体燃料ロケットに比べて小型であり、構造が極めてシンプルかつ取扱いが簡単、開発コストも安くて製造は短期間で済みます。その半面、パワー不足であり細かい軌道制御に向いていないため、惑星探査などの大仕事はできないと世界で言われてきました。それを、日本が可能にしたというわけです。
 さらに驚くことに、ロケット打ち上げというとなんだか一大イベントで大げさな感じがしますが、最新鋭のイプシロンロケットなんかは、パソコン2台規模でプシュンと打ち上げられますからね。これはモバイル管制といいます。
 昔は80人ほどいた打上げ時のオペレータもいまや8人で、従来は数時間要していた点検作業も、ロケットに自立点検システムがあってパパっと終わっちゃうという、飛行機の離陸なみに簡素化されているのですね、今は。
 それも、これからのロケットは「高性能、高信頼性、低コスト」でなければならぬという、経済情勢を見据えた著者らロケット技術者の先見の明のおかげです。つまり、これが宇宙への敷居を下げ、宇宙利用の裾野を広げることに直接繋がっていくのです。たとえば、発展途上国が人工衛星を持ちたいならば、日本の固体燃料ロケットを使用するのがお得であり、我が国も儲かる、というわけですね。
 こういう効率とかエコを追い求めると、日本人が一番かもしれません。貧乏性ですかね。
 NASAに比べると、予算は数十分の1しかありません。金がなければ、頭を使う。
 モバイル管制でイプシロンが飛んだとき、ヨーロッパからはお祝いのメールがたくさん届きましたが、NASAからは一通もこなかったらしいです。よほど悔しかったのでしょう。

 もちろん、当たり前ですけど、道は平坦ではありませんでした。
 実は、2006年2月に、いったん日本の固体燃料ロケットは研究停止の危機を迎えています。
 後継機の開発が進む前に、M-Vロケットが強制的に終了になってしまったのです。
 このときは、著者もショックだったそうですが・・・まあ、国の予算は減る一方の時期でしたからね。
 それから、なんとかイプシロン計画が開発フェーズに移行したのが、2010年8月です。
 その3年後、固体燃料ロケットの聖地である内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられることになった、イプシロン試験機は、なんと1万5千人の大観衆の目前で打ち上げ19秒前に緊急停止してしまいます。
 18日間の総点検のあと、やっと2013年9月14日に打ち上げ成功したのです。
 著者は打ち上げの実質的な責任者でした。このときの心境は本書に詳述されています。
 MーVロケットが終了してから、7年の逆境と18日間の試練。
 それを乗り越えたのは、夢を追うロケットマンたちの“人の輪”でした。

 真山仁の「売国」は固体燃料ロケットに絡む陰謀の話であり、本書と被るどころか、著者がモデルの人物まで小説には登場しています。最近、読んだところですから、そういった意味でも興味深く読むことができました。
 もちろん、著者ら開発陣が経験した苦悩は、書かれている数倍のものだったと思いますし、書けないこともたくさんあるのでしょう。それはともかく、日本の宇宙開発の姿勢がこれほど素晴らしいものだとは知りませんでした。
 深海探査のほうが大事じゃん、なんて思ってたくらいですが、宇宙開発こそ日本を救うかもしれません。
 政治家に誤魔化されていはいけません。
 アメリカのご機嫌伺いで独自技術のロケット開発をやめるなんて言語道断だし、「2位ではダメなの?」のアホのオバハン誰だっけ、レンポウだっけ? あんなのにも騙されてはいけません。


 
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