「エボラの正体」デビッド・クアメン

 2013年12月。
 リベリアとシエラレオネ国境から程近いギニア南東部のゲケドゥ県から始まったエボラウイルス病のアウトブレイク(大発生)は、瞬く間に隣国のリベリアとシエラレオネに波及、そして偶然の出来事が重なり、飛行機を経由して人口2100万人の大都市ナイジェリアのラゴスに飛び火した。
 2014年8月8日、WHO(世界保健機関)は、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に指定。
 CDC(アメリカ疾病予防管理センター)所長はアウトブレイクが「手に負えなくなりつつある」と語り、国連事務総長は全世界からの大規模な支援を求める“国際レスキューコール”を発表した。


 エボラウイルス病の典型的症状は、発熱、頭痛、嘔吐、下痢、出血、そして二次的感染と高い致死率。
 ウイルスはまず免疫系に機能障害を引き起こした後、複製によって人体に壊滅的な影響を与えていると考えられています。WHOは、エボラ出血熱という病名を、エボラウイルス病に改名しました。これは、感染した患者の半数以上はまったく出血せずに呼吸不全や内臓の機能不全で死に至ることからの変更だったわけですが、その恐ろしさは変わったわけではありません。

 本書発表時点(2014年11月26日)で、西アフリカのエボラウイルス病の感染者は1万5351名、死者は5459名でした。
 今は、日本にいてあまりニュースも聞きません。おそらく終息に向かっているのでしょう。
 とはいえ、アメリカやヨーロッパなどの医療従事者が二次感染して世界に衝撃を与えたのは記憶に新しいところで、日本国内でも防疫に大騒ぎしましたよね。そして、いまたとえ一時的に沈静化したにせよ、このエボラウイルス病が近い将来ふたたび人類を襲うことは、ほぼ確実なのです。
 なぜなら、致死率60~75%というこの恐怖のウイルスは、1976年に最初に出現が記録されて以来、突然現れて大勢の人々の命を奪い、そして研究者がその正体をつかもうと捕らえる前に、こつ然とアフリカの熱帯林のなかに姿を消してしまうということを繰り返しているからです。
 エボラウイルスはどこから来て、どこに行くのか? まだ、ハッキリとわかっていないのです。

 今のところ、エボラウイルスには遺伝子が30~40%ほど相違する5つの異なった種が確認されています。
 まずその名前の由来(現コンゴ共和国の北部を流れるエボラ川)にもなり、1976年、最初に現れたザイール株。
 1976年、時間差でスーダンに現れ、少し致死率の低いスーダン株。
 1989年、フィリピンからアメリカに輸入されたサルから発見されたレストン株。
 1994年、コートジボアールのタイ国立公園でスイス人女性が感染したタイフォレスト株。
 2007年後半、西ウガンダでアウトブレイクした、ブンディブギョ株。
 この5種。2014年の西アフリカの場合は、ザイール株の変異(進化?)型と云われています。
 1996年のガボンや2000年のウガンダ北部など、数百人の感染者を出し数十人が死に至るアウトブレイクが、忘れたころにやってくることを繰り返していましたが、1976年に発見されてから2012年末までのエボラウイルス感染による死者は把握されているのは1580人です。これが一気に、膨れ上がったわけですから、エボラウイルスに何が起こったのか原因はまだまったくわかっていませんが、人類の未来にとっては非常に大きな脅威であることは間違いありません。

 アウトブレイクとアウトブレイクの合間に、エボラウイルスがひっそりと潜んでいることができるのは、このウイルスが人獣共通の病原体であるからです。病原体を運び、慢性的に体内に住まわせながら、ほぼまったく病気にかからない保有宿主と呼ばれる生き物のなかに潜んでいるのです。
 人間に伝染する動物感染症(ズーノーシス)は、鳥インフルエンザ、狂犬病、新型肺炎(SARS)などパンデミック(世界的流行)の脅威を秘める厄介な病気が多いんですね。人類がその駆逐に成功した天然痘なんかは人間にしか感染しませんし、特定の動物にしか感染しない病原体は、まだやりやすいと云えます。しかし、人獣共通感染症の場合は保有宿主を隠れ蓑にして、その宿主が特定されないかぎり、永久に実態が謎のままなのです。

 どの昆虫、哺乳類、鳥類、あるいは植物がエボラウイルスの秘密の隠れ家となっているのか。
 本書の推理は、ズバリ、コウモリ。あくまでも推測ですよ。
 コウモリの属する翼手目は1116種、これは哺乳類全体の25%をコウモリの種類が占めているということになります。しかもコウモリが現在の姿に進化したのは、約5千万年前。非常に古くて種類の多い系統なのです。
 ですから、あらゆる病原体が、古くて種類の多いコウモリのなかで太古から育ってきたとしたら・・・
 現に、SARSコロナウイルス、狂犬病、ニパ、ヘンドラなどの危険なウイルスの宿主がコウモリであることは、すでに特定されているのです。
 エボラウイルスの保有宿主がアフリカに多く生息するコウモリであっても、なんの不思議でもありません。
 フィリピンの猿が感染していたのも、実は世界中のコウモリが古代から生息しているうちに何らかのエボラみたいなウイルスの宿主となっている可能性があることを考えると、あり得ると思います、私は。
 その場合は、かなり怖いですけどね。
 日本にもコウモリはいるわけですから。アフリカからの伝播ではなく、なんらかの原因で、日本国内でエボラウイルス病のようなアウトブレイクが発生する確率はゼロではないのです。
 最近ジビエが流行っおり、それ自体は美味しいし農業保護や地域活性化などに関連する素晴らしいことですが、ブッシュミートには気をつけすぎて悪いことはありません。


 
 
関連記事
スポンサーサイト

この記事へのコメント

トラックバック

URL :

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
カテゴリ
ミステリー (92)
ミステリー短編集 (17)
歴史ロマン・ミステリー (17)
冒険ロマン・ミステリー (14)
サイコホラー・ミステリー (15)
学園ホラー・ミステリー (14)
民俗ホラー・ミステリー (10)
政経・金融ミステリー (18)
ファンタジックミステリー (22)
近代・昭和ミステリー (14)
オカルティックミステリー (7)
青春・恋愛ミステリー (21)
医療小説・ミステリー (22)
伝奇小説・ミステリー (14)
時代人情小説・ミステリー (18)
時代冒険小説・ミステリー (19)
社会小説・ミステリー (15)
スポーツ小説・ミステリー (10)
アーティスティックミステリー (12)
海外ミステリー (28)
海外冒険小説・スリラー (17)
SF・FT・ホラー (26)
SF・FT・ホラー短編集 (13)
海外SF・FT・ホラー (17)
クライシス・パニックサスペンス (12)
警察・諜報サスペンス (29)
悪漢・犯罪サスペンス (30)
中間小説 (24)
青春・恋愛小説 (32)
家族小説・ヒューマンドラマ (31)
背徳小説・情痴文学 (14)
戦記小説・戦争文学 (19)
政経・金融小説 (14)
歴史・伝記小説 (22)
芥川賞受賞作 (19)
直木賞受賞作 (19)
文学文芸・私小説 (24)
海外小説・文学 (12)
文学アンソロジー (54)
歴史・伝記 (30)
戦史・戦記 (31)
海軍戦史・戦記 (150)
物理・宇宙 (26)
生命・生物 (37)
アンダーグラウンド (46)
事件・事故 (38)
世界情勢・国際関係 (25)
スポーツ・武術 (24)
探検・旅行記 (22)
随筆・エッセイ (30)
月別アーカイブ
プロフィール

焼酎太郎

Author:焼酎太郎
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
最新トラックバック
リンク
QRコード
QR
RSSリンクの表示