「日米開戦の正体」孫崎享

 日本の歴史上最大の愚挙である真珠湾攻撃。
 日本は、工業生産力が10倍、GNPも10倍以上違う大国アメリカと無謀にも太平洋で激突しました。
 約3年半続いた無益な戦争の結果、約310万人の日本国民が死亡し、国体は滅亡寸前まで追いやられました。
 ボロ負けです。
 どういう感じでしょうか、今で言うと北朝鮮が中国に戦争を仕掛けたようなもんですかね。
 石油の8割方をアメリカに依存していた無資源国日本において、対米戦争の愚を主張する人間はたくさんいたにもかかわらず、
 なぜ、当時の日本は真珠湾攻撃という愚かな道を選んだのか?
 本書は真珠湾攻撃から36年前の日露戦争にまで遡り、開戦の真相を追求した問題作です。

 著者は孫崎享さん。
 およそ22万部出来した「戦後史の正体」の著者である、元外交官です。
 まあ、この方について色々言う意見もあるでしょうが、イデオロギーは別としてですね、日米開戦の謎を追う書物としては素晴らしいと思いますよ。そこに著者の政治的な生臭い主張は関係ありません。
 歴史は年代や人名を覚える学問ではなく、出来事を通して人間や国家の行動を問う学問です。
 この点において、著者は私の目から見る限り沢山の文献を引用し、年代を正確になぞり公平に判断されていると思います。
 「山本五十六は優れた戦術家であったが、レベルの低い戦略家であった」なんて思わず刮目させられました。
 アメリカは日本が戦争を仕掛けてくることを、手ぐすねひいて待っていました。
 アメリカが世界大戦に参入することを決意したのは1940年12月のこと(兵器工場として英・露・中に莫大な武器供与を開始)ですが、世論は戦争に参入することに反対であり、ルーズベルト大統領としては先に戦争を仕掛けられた上で、米国民のナショナリズムとやる気を燃え上がらせなければならなかったのです。
 真珠湾攻撃という奇襲は、その点、ルーズベルトにとってこれ以上ない“愚策”でした。
 イギリスのチャーチルは、日本が真珠湾攻撃を行ったことを知り「これで英国は安泰だ」と喜んだそうです。
 アメリカの怒りに火がついたからです。これがもし、フィリピンとかを攻撃していた場合には、アメリカ国民のショック度は違うものになっていたでしょう。
 ですから、真珠湾攻撃は戦術的には成功ですが、戦略的には最悪なものとなったのです。

 本書を読む限り、最も戦争責任があるのは東條英機と読めますが、まあこれは私も絶対的にそう思いますし、あのハゲの国賊が愚かにも自殺をし損なったすえに「あの戦争は正しい戦争だった」とか言っているのを聞くにつれ、東京駅とかで公開処刑をすればよかったと痛切に思います。目隠しなどせずに万人の前で素っ裸で殺せばよかったでしょう。
 東條英機こそ「20万人の英霊の犠牲を思えば支那事変から陸軍は引けない」と突っ張って、日米開戦を推し進め、20万人どころか300万人もの日本国民が死ぬことになったことの元凶です。
 この男、昭和天皇が戦争に絶対反対の立場をとればクーデターを起こしたでしょう。
 「私は黙っているが下の者が何をしでかすかわからない」と言う奴ほど、腹の中は決まって真っ黒なものです。
 しかし本書では、そのような一人のハゲの責任ににとらわれるのではなく、日露戦争直後にすでに真珠湾攻撃の遠因はあったのだと検証されています。これがよかった。
 日米開戦への大まかな流れは、日露戦争で満州の権益を得たと錯覚した(実際には南満州鉄道の経営権だけ)日本が、この利権を守るために満州を軍事的に支配し、満州に接する支那から入ってくる抵抗勢力を追って支那に侵入し、そのため抗日を優先して手を結んだ中国共産党と蒋介石政権との泥沼の戦争状態へと変化、支那の抗日戦争に英米が援助しているためそのルートを断とうとして仏印に進駐、アメリカが日本への経済制裁(石油禁輸など)発動、このままジリ貧になるよりもいっちょやったれやでパーサーカー状態、叩き潰される(TдT)、という順番です。
 この流れのなかで、開戦を止められる場面は何度もありました。
 たとえば、伊藤博文が朝鮮人に暗殺されなければ、彼は軍部を抑えて満州への干渉を防いだだろうと書かれています。
 さらに満州事変のまだ軍部の力が弱いときに、メディアが軍部の謀略を叩けばなんとかなっただとうとも。
 強硬な意見を吐く人がヒーローになり、ちょっと待ったというような人は軟弱、腰抜けと呼ばれる時代の到来です。
 1941年の近衛内閣総辞職後に、日米開戦に反対していた東久邇宮親王が首相になっていれば少なくとも開戦は引き伸ばされていた、引き伸ばされればモスクワでドイツが大敗したために日本は日独協定を頼りにした連合国軍への宣戦を諦めただろうというのも、なるほどその通りかと思いました。
 他にも、いろいろ書かれています。しかし、歴史はいまさら覆らないのです。残念ながら。

 戦後の日本社会を研究したあるアメリカ人は、日本国民の権威への従属は甚だしく、日本社会は全体主義の無差別奴隷社会であり、戦争によってボス(軍)がボス(アメリカ)に変わっただけである、と述べたそうです。
 心のなかでは原発やTPP反対と思っていても、仕事などの利益関係あるいは自分が属したり信奉している権威者の意見によって、いつのまにか自分が思っている信条がどうでもよくなってくるのが日本人なのだとか。
 全体主義の利己主義なのですね。
 あの戦争は「だまされていた!」といって平気で言っていられる国民なら、おそらく今後もまただまされることでしょう。
 と孫崎享さんは書いていますが、孫崎さんの信条はともかく金言だと思われます。
 言いたいことはなんでも言いましょう。
 大丈夫、少し食べるものと酒と読む本さえあれば生きていけます。


 
 
 

 
 
 
 
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