「思春期」小手鞠るい

 「わたし」は一ヶ月ほど前に入学したばかりの中学一年生。
 なのに、もう学校に行きたくない。
 5月の空はきれいに晴れ上がって、空気は澄みきっているのに、「わたし」の気持ちは泥水のように濁っている。
 学校へ行かないなら、どこへ行けばいいのか、一日中どうやって時間をつぶせばいいのかわからないから、仕方なく行くのだ。
 授業についていけない。体育も図工も音楽も苦手。
 活発じゃない、積極性もなければ、協調性もない。
 クラブ活動(文芸部)もちっとも楽しくない。
 いつも自分の言葉と態度に対して後悔している。将来、何かいいことがあるのか不安でならない。
 仕事をやめた母親は、わずらわしい。「わたし」を産んでくれて「わたし」のそばにいて「わたし」をやしなってくれているけど、「わたし」の理解者ではない。会社を辞めて家にいるようになってから、母親は少しずついやな人になっていく気がする。
 家族とのあいだに空いた、途方もない距離と深い溝。
 「わたし」には希望なんてない。「わたし」の友達は絶望である。
 
 劣等感のかたまりのような少女の暗い中学生活を描いた、青春小説。
 著者いわく、この物語の主人公の「わたし」は、昔の自分だそうです。
 読みながら、どうもそんなような気もしてたんですがね。
 中1の夏休み、文芸クラブの憧れの女先輩との真夏の昼の夢は、はたして真実かどうかはわかりませんが。
 小手鞠るいさんは、現在50歳代の後半ですよね。岡山県出身。
 しかしまあ、思春期というか中学生くらいのときは、時代関係なく考えていることはだいたい同じですわ。
 この物語の「わたし」は孤立しているのではなく、孤高であり、ちょっとアウトサイダーですけどね。
 ふつう、群れたがりますからね。特に女子でしょ。だから、「わたし」はふつうではないですよね。むしろカッコいい。
 人間の友達なんてうざい、犬のエル以外には心を許せる人間がいないというのもね、清い。
 ちなみに、この小説で名前があるのは犬のエルだけです。
 どうしてかというと、「わたし」は著者でもあり読者でもあり、誰ででもあるんですね。
 友達なんてね、口ではいいますけど、本当の友達なんてなかなかいませんよ、群れているだけです。
 そういう意味では、この「わたし」はある意味核心だとも言えます。
 誰もが思春期に目を逸らして、逃げてきた真実をまっすぐ見据えているということなんです。
 私は友達なんていない、いやいらないと言える女子がどれだけいましたかね。
 
 「わたし」のすごいところは、クラスのある男子が嫌いだったのに突然好きに変わったとき、そこで嫉妬の意味に気づいたこと。
 これは、私も読んでいてなるほどと思いました。
 誰もが、人を好きになるには、まず自分のことが好きで、自分が自分を尊敬できていないといけないというのです。
 自分をしっかりと尊敬し、肯定できていればありのままの自分に自信が持てるから、人を好きになっても嫉妬しないんです。
 なるほど、そうか、確かに。
 嫉妬深い人っていうのは、自分に自信がもてない、自分が好きではないから、不安なんですね。
 ストーカーなんてのは、その最たるものでしょう。やっぱ嫉妬深い人は、どこか疚しいんだと思われます。
 自分が好きではないということは、なにか鬱屈しているということです。
 その鬱屈を解放するためには、ありのままの自分を肯定し、今の自分のままでいいと心から納得しなければなりません。
 頑張って生きるようではダメなのです、気づけば自然と頑張っているようにならなければ。
 悩みも逃げずに向きあえば、きっと絶望が希望に変わるときがくる。
 だから、自分に真摯に向き合わねば。目を背ければ、いつまでたっても自分が自分でわからないままなんです。
 
 私が高校生の頃に好きだった女子が、部屋に「大好きな自分」て楷書して貼っていましたわ。
 こういう意味だったんでしょうね。
 やっと理解出来ました。遅かったですが・・・


 
 
 
 
 
 
 
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