「考古学崩壊」竹岡俊樹

 石器を見るということは、べつに科学うんぬんじゃなくて、いかに目を訓練するか、それだけにかかっていると思います。
 縄文の土器と前期旧石器とが見ただけでわからないのなら、それはまさに八百屋さんがマツタケとシイタケを区別できずに売っているようなものですよね。それじゃあ、八百屋さん、商売成り立ちません。
 なのに、なぜ考古学者は商売が成り立つのか。
 それはマツタケとシイタケを間違って売っても一般の人々がわからないからです。
 卑俗な言葉で言ってみれば詐欺みたいなものです。


 2000年11月、全国に衝撃を与えた遺跡捏造事件の、総まとめとでも云うべき良本。
 著者はフランスで石器分析を学んだ日本考古学界の一匹狼・竹岡俊樹博士。明治大出身。
 クセのある人間かもしれませんが、一本筋の通った、ちゃんとした学者です。
 レベルやトランジットを振った時間よりも酒を飲んだ時間のほうが長いというそのへんの考古学者とは違います。
 私はこれまで、上原善広の「石の虚塔」で15年前のこの事件に着目し、角張淳一の「旧石器捏造事件の研究」でその根の深さに思い知らされ、岡村道雄の「旧石器遺跡捏造事件」で事件の黒幕とおぼしき人物の釈明を読みました。
 そして、本書を読み終えたところで今、一応の完結を見たと思っています。
 つまり、この事件の真相と深層ですね。内側、外側すべてです。
 本書のサブタイトルは、前期旧石器捏造事件の深層、です。真相ではありません。
 もちろん著者の推察するところの、驚愕すべき事件の真相(ちょっと怖い。不気味)も載っているのですよ。
 しかし、この事件の深層は、遺跡を捏造したという犯人の行為にあるのではなく、日本考古学の成り立ち及び現状のあまりにも学術として未熟な本質にあったというのが、著者の見立てです。
 そして著者はこの本を書くことを決心するまでに13年かかったそうですが、それは捏造事件によって考古学の信用が地に落ちてすら大胆な改革を実行し得なかったそのアカディミズムに対する失望ゆえだろうと思います。
 
 ヨーロッパや中近東の旧石器に造詣が深い著者が、神の手こと捏造犯・門馬新一(旧姓・藤村新一)の石器を初めて見たのが、1997年2月でした。それら上高森遺跡から出土した石器は、著者の目から見てオーパーツだったそうです。
 捏造を見て取った著者は、1998年に批判の論文を展開するも無視されます。角張淳一にはインターネットのHPに記事を書かせました。そしてその3ヶ月半後、毎日新聞が自ら石器を発掘現場に埋めている藤村新一の写真をスクープしたのです。
 著者の云うことを信用して動いたのは、考古学者ではなくジャーナリストでした。
 そして恐るべきことに、こうした形で明るみに出なければ、すなわち毎日新聞の隠し撮りが失敗するとか、東北旧石器文化研究所内で先に捏造に気づいてしまった場合、この事件は永久に闇に隠された疑いがあります。
 つまり、教科書に嘘の事実が載せられたままになるどころか、日本列島の歴史が曲げられたまま後世に伝えられたということです。これはとてつもない、重大な事案ですよ。
 なのに、主に捏造の舞台となった宮城県では、自治体の職員も発掘を共にしていたという理由から、大切な税金が捏造遺跡の発掘に使われているにもかかわらず、告訴しませんでした。
 大変な間違いだと私は思います。
 この事件の真相を警察権力で捜査して、いったん旧石器考古学を解体することが必要だったのではないですか。
 事件後、日本考古学協会は検証委員会を設置し、藤村新一は退会処分の後「精神疾患」によって姿を消し、検証委員会初代委員長の戸沢充則の弟子でもあった鎌田俊昭や東方福祉大の梶原洋ら第一次関係者は説明責任を果たしたとして免責になり、捏造石器をホンモノとして支持していた研究者たちは騙された被害者として検証委員会に入ることによって立場を180度変え、結局、文化庁主任文化財調査官の岡村道雄がスケープゴードになりました。
 角張淳一の本では岡村道雄犯人説が説かれていますが、本書では明大の戸沢充則と角張の師である小林達雄の“東北大の岡村憎し”の感情がそうさせた、と書かれており、岡村道雄はあくまでも捏造を知らなかったというスタンスです。
 まあ、知らないでは済まされないんですけどね。
 鎌田俊昭だって本書では日本の旧石器時代研究者の中では学問的に一番まっとうであったが、藤村に洗脳され、ルビコン川を渡りましたが、捏造に関してはこれっぽっちも疑ってなかっただろうと書かれています。
 これすなわち、なぜ専門家が20年間に渡る捏造を見抜けなかったということに繋がります。
 結局ね、岡村もそうですが、日本の旧石器時代研究者は、石器を見る目をもってなかったのです。
 偽の石器が出ようが、ホンモノの石器が出ようが、その石器が出た地層がすべてであり、石器そのものの分析ができなかったのです。だから、藤村が縄文石器を埋めて掘り出しても、地層が古いもんだから、疑いもしなかったのです。バカだよね、ほんとに(爆笑)
 だいたい、原人と旧人と新人は、順番に進化したものじゃないのに、そう信じていた考古学者がいたっつうんだから。
 私でも知っていますよ。ちなみにアジア人にはネアンデルタールの遺伝子も5%くらい混じっているんですがね。
 だから、日本人のルーツの改ざんじゃなくて、あくまでも日本列島の生物の歴史の改ざんなんです。
 猿の頃ですよ。だから前期旧石器なんて猿の石ころなんですよ。
 ひょっとしたら、我々の先祖が使ってた石ころだと思って研究発掘していた考古学者もいるんじゃないですか、バカだから。
 我々のルーツはホモ・サピエンスですから。20万年前のアフリカの。
 ですから、本書にも少し触れられていますが、中期旧石器より以前(3万年より前)は、理系の生物人類学者に任せたほうがいいですって。
 文系の考古学者では分不相応なんですよ、きっとその時代は。
 著者は大学考古学と行政考古学など考古学会の学閥対立などにも書き及んで、この学問の抱える深い問題を提起していますが、私は捏造事件というのは、本来扱ってはならない時代をその能力のない(学者としての基本的知識に欠ける)考古学者という人種が扱ってしまったためにその累積で起こった事件だと思いました。深層はね。
 事件そのものは、石器など何もわからないフリをしてその実博学で、精神病というのもおそらく嘘である天性の詐欺師、藤村新一がコンプレックスから学者連中を騙して喜んでいたというのが真相のようです。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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