「奇蹟の飛行艇」北出大太

 成績は第21期操縦練習生30名中30番のビリ。
 しかし、「ガタ馬車」「下手くそ」と言われた劣等生は同期生のほとんどが戦死していく中、終戦までしぶとく生き残った。
 昭和11年横浜飛行艇隊初代隊員となり、九一式双発飛行艇による支那事変への参戦、日本漁船を驚かすソ連への威嚇飛行、横須賀海軍工廠空輸班、飛行実験部テストパイロットを経て、昭和18年4月アンボン島の934空で前線に出てからは、終戦まで南方に残ったただ1機の飛行艇パイロットとして、敵中に孤立した基地への輸送と人員救出に七面六臂の活躍を見せ、終戦間際には司令部付輸送機としてジャワから長駆敵中を突破して日本内地までVIPとダイヤモンドや金塊を送り届けることに成功した。
 彼の凄いところは、そこから詫間で修理中の飛行艇を受領して、またジャワに帰ったことである。
 搭乗員生活14年、飛行時間7千時間を誇る、海軍最古参の飛行艇パイロットの歴戦の譜。


 著者の北出大太は東京都出身。昭和7年、第21期操縦練習生。
 とてつもなく古いパイロットです。その戦記も貴重なら、成績がビリだったというのもある意味凄い。
 横須賀海兵団の機関科から飛行機乗りを目指したときは、教員からすさまじい制裁を受けたそうですが、そうまでして夢の飛行機乗りになったならばさぞ適性があるのかと思いきや、30名中ビリで卒業とは・・・
 今まで海軍機搭乗員の戦記を数々読んできましたが、練習生で成績がビリだった人の戦記は初めてです。
 しかし、それでも同期の30名中、内地で教官をしていた1名を除き戦地で生き残ったのは著者ひとりですからね。
 ソロモンとはまた違う英軍機を相手にしたニューギニアの前線で、敵戦闘機に追い回されながらただ1機の飛行艇のエースパイロットとして生き残ったんだから。運だけではありません。
 目の前に敵基地があるマノクワリやダバオへの夜間輸送と人員救出は、凄かったですね。
 昭和20年5月26日、南方に残った民間人のVIPとダイヤモンドなど貴重な金属を載せてジャワから、サイゴン、香港、上海を経由した内地への敵中突破は、読んでいて鳥肌が立ちました。もちろん、帰路も。
 鈍重で図体のでかい飛行艇でよくぞまあ、死ななかったもんだと思います。
 作中の端々で出てきますが、やはりベテランパイロットならではの勘というか、危機察知能力がものを言ったんだろうなあ。
 ちなみに、著者の専用機は二式大艇ではなくて、九七式大艇でした。
 二式大艇の離着水の難しさが嫌いだったそうです。空輸部のときに、川西航空機で6発の大型飛行艇試作機を見たとの記述もあります。
 詳しくはわかりませんが、著者の九七式大艇は司令部付の輸送機仕様であっただろうと思われ、冷蔵庫(扉を開け放しておいてコーヒーを入れておけば上空でホットが飲める。原理不明)はありましたが、武装はありませんでした。
 それでも、手動で爆弾を落としての潜水艦攻撃や、20ミリ機銃を特別に装着して敵戦闘機を撃墜するなど、逃げまわるばかりではなく果敢な面も見せています。
 でも一番すごいのは、終戦間際に内地へ輸送任務の途中、香港襲撃にきた敵機に襲われたときでしょうねえ。
 後ろに張り付いた敵戦闘機3機を、どうやって鈍重な飛行艇がかわしきれたのか、詳述されています。
 前に読んだ二冊の飛行艇の戦記も非常に面白かったですが、本書のような臨場感あふれる空戦描写はなかったと思いますね。

 その他、これまで目にすることのなかったニューギニアの水上機部隊である934空の活躍が記されている点も貴重です。
 二式水戦や零式水偵、零式観測機、そして著者ら飛行艇が集まったこの部隊は、主にオーストラリア方面の哨戒を担当していました。
 零戦に浮船を付けただけの二式水上戦闘機は、敵陸上戦闘機に対して互角以上の戦いをしており、なかでも934空一のエースで38機撃墜のスコアを誇る河口猛飛曹長の戦いぶりが、基地から見ていた著者によって詳しく記述されています。
 残念なことに昭和18年10月9日にB-17爆撃機編隊への迎撃で河口飛曹長は戦死しましたが、その前に著者とタバコを吸いながら会話しており、地上で彼の自爆を目撃した著者がふと目をやると、飛曹長の吸っていたタバコはまだ火がついていたそうです。タバコの火が消えないうちに、暗転してしまう人間の生死。
 戦争というものは、いかにも無情です。


 

 
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