「『不戦兵士』小島清文」永沢道雄

「栗田艦隊退却す」(下記関連記事、カテゴリー海軍戦史・戦記参照)を著した元日本海軍中尉で戦艦大和の暗号士をしていた小島清文さんの戦時下の苦闘を敗戦まで綴ったものです。
先の本では大和に乗り組んでレイテ沖海戦に出撃し、修理のため呉に帰港するところまでの「暗号士」としてのエピソードで終わっていました。そしてそれは栗田艦隊謎の反転を生々しく描いた名著でした。
本作は200ページくらいまでは、前作(栗田艦隊退却す)と重なる部分も多いですが、呉に帰港してからの小島さんの変転を敗戦まで追っています。
著者は元朝日新聞論説委員の永沢道雄氏。
1987年、フィリピンの山中で共に戦い生き延びた小島中尉と池山兵曹を42年ぶりに再会させるきっかけを作ったのは氏の手掛けた朝日新聞の「テーマ談話室」という投稿欄でした。
それはそれは……今の我々からは想像も絶するサバイバルですよ。彼ら二人が生き延びたということは、とんでもなく低い確率だったと思います。

小島中尉(そのときは少尉)は大和が帰還して約一ヶ月後の昭和19年12月19日、第26航空戦隊への異動の辞令を受けます。
これがどうだったか、というのは問題ですね。
艦隊の機密を知る「暗号士」の厄介払いなのか。大和からの異動第一号が彼であったこと、移動先の第26航空戦隊が既に米軍の猛攻を受けようとしているフィリピンのルソン島にあったことなど顧みると、その存在を海軍が消去しようとしたと考えられても仕方ないでしょうね。
既に制空権がないものだから台湾で待機していた小島中尉ですが、なんと飛行便が融通できてしまいます。
これは将官クラスの人間が小島中尉とは逆にルソンから台湾に逃げ出すために飛行機が用意されたのですね。
当時ルソンは陸軍地上部隊9万、陸軍航空軍6万(飛行場整備、警備)、船舶輸送部隊1万。海軍のほうは第一、第二航空艦隊を基幹とする6万5千、母船を沈められた未所属兵が3万(!)ということで、24,5万の兵力があるといえどその大半は地上戦に耐えられない雑軍だったらしいです。
小島中尉はルソン島クラーク飛行基地の東の山岳地帯で野戦部隊の小隊長に任ぜられます。
もちろんつい先日まで戦艦に乗り組んでいたくらいですから地上戦は素人です。そしてその少し前はまだ学生なのです。そこで前述の池山智という経験のある陸戦屋に出会ったことは運命的でしたね。だから生きて再び祖国の土を踏めたかもしれない、42年ぶりに再会して互いの青春を振り返ることが出来たかもしれません。
「軍艦では個々の運不運はつきまとうが、大体は一蓮托生、死なばもろとものあきらめがある。しかし、ここ(陸戦)では一人一人の身のこなし、決断、勘が瞬間にその人の運命を左右する」恐ろしいですね。
「敵砲兵が1時間に何千発という想像を絶した砲弾を撃ち込んでくる。そのあとを戦車が進み、洞窟陣地を砲撃する。危険がないとなると、歩兵が進み出て手榴弾を投げたり火炎放射器で火攻め。飛び出した日本兵は自動小銃で倒す。これはもう戦争ではなく、狩猟である」
結局、部下のほとんどを失いながらも海岸近くまで逃げきるのですが、ここで信頼を寄せてくれる生き残りとともに投降を決意します。
最終的にハワイの収容所まで送られた小島中尉は、無益な戦争で貴重な人命がこの瞬間も失われていることを嘆き、粗悪な立案の作戦により兵隊を虫けらのごとき扱う軍部に怒りを抱き、他の捕虜と協力してB29爆撃機より日本本土に投下される宣撫ビラの文案作成に協力するのです。
復員は昭和20年10月31日、浦賀でした。



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