「勁草」黒川博行

 オレオレ詐欺に代表される特殊詐欺の被害額は300~400億円にのぼるそうです。
 凄まじい額ですな。
 本作は関西を舞台にした犯罪系エンタメを書かせたらもはや右に出る者はいない直木賞作家黒川博行による、特殊詐欺犯罪を背景に底知れぬ闇に落ちてしまった“悪漢”と、それを追う大阪府警特殊犯罪捜査班の物語。
 いったんハマれば一気読み間違いなし。

 オレオレ詐欺は誰もが知っているでしょう。
 しかし、どうしてあんなのに騙されるのだろうと思っている方は多いでしょうが、その詐欺グループの形態、そしてそれがかなり組織的であることはあまり知られていません。
 様々な役目の人間がおりましてね。
 業界の符牒で言えば、金の受け取り役は「受け子」。電話をかけて騙す役は「掛け子」。振り込ませた金を引き出しに行くのが「出し子」で、掛け子を管理しているのが「番頭」、出し子と受け子が金を持って逃走するのを防止するための「見張り」、出し子と受け子をスカウトする「リクルーター」、闇の携帯電話や架空口座を売る「道具屋」、多重債務者や株取引経験者、大手企業退職者といった名簿を売るのが「名簿屋」と呼ばれています。
 そして番頭は稼いだ金をオーナーである「金主」に上納し、金主はケツ持ちのヤクザに守り料を渡すのです。
 何段階ものピラミッドになった複雑な系図になっているのです。
 警察は一挙にこのピラミッドを崩したい。頂上を目指したい。
 しかし、特殊詐欺の検挙率はなんと20%に満たないのです。
 それも検挙されるのは出し子と受け子が大半で、騙し役の掛け子をまとめている番頭にまですら捜査の手が及ぶことはなかなかありません。出し子や受け子は一方的に集金チームのリーダーから命令を受けている、いわばロボットであり、掛け子や番頭の声も聞いたことなければ顔など見たことないのです。幹部によるリスク・ヘッジですわ。
 知っていることを隠しているのならば口を割らせるでしょうが、もとより知らないのだから下っ端をいくら捕まえても上まで手が届きません。トカゲの尻尾きりで、いくらでも小金に困っている人間は替えがきくのです。
 本作の場合は、生活保護受給者を囲い込んだ貧困ビジネスのトップが、囲い込んでいる最低レベルの生活にまで落ちた生保受給者を、詐欺の受け子や出し子に使っていました。
 ほんのわずかの日当で、彼らは言われた通りに動くのです。はたしてその接触する被害者が、老後の大金を奪われて途方に暮れることになっても、彼らには可哀想という感覚はありません。
 金持ちから金を取って何が悪い? くらいにしか思っていません。

 少し本作のあらすじ。
 刑事部捜査二課と生活安全課、そして捜査四課の混成部隊である大阪府警特殊詐欺合同特別捜査班。
 彼らの目的は、受け子の背後にいる掛け子や、掛け子を操っている番頭など元締めを含めて、オレ詐欺グループを一網打尽することである。
 捜査四課からきた佐竹は、生安からきた湯川とコンビを組み、NPO法人「大阪ふれあい運動事業推進協議会」なる組織に目をつける。5階建てのアパートを持つこの組織、実はNPO法人を騙る貧困ビジネスを生業としていた。
 生保の連中を囲い込んで、そのなけなしの金をむしり取るのである。
 しかし代表の高城はそれだけにとどまらず、オレ詐欺グループと深く関わって、受け子の差配にまで手を染めていた。
 佐竹と湯川がついに高城にまでたどり着いたとき、一方では思いよらぬ事件が起こっていた。
 名簿の下見(詐欺相手の事前調査)をしていた矢代(22)が賭博でヤクザに高利の借金をこしらえてしまい、高城の下で集金やらを手伝っていた橋岡(33)の目の前で、借金を高城に断れれて激昂した矢代が高城を殺してしまったのである・・・
 橋岡は成り行きで殺人の共犯にされてしまい、そのうえ死体の遺棄まで手伝わされるのだが・・・
 西成の日雇い飯場で高城に声をかけられ裏稼業を手伝うようになってから3年。
 橋岡の明日には底知れぬ闇が口を開けて待っていた。

 矢代のキャラクター設定を、半グレということで少し奔放にし過ぎたように思います。
 今までの黒川小説には、半グレはいなかったように思います。
 カタギともヤクザとも違う半グレ感の設定に、少し失敗したんじゃないかと。
 矢代と橋岡が喋っていると、どちらがどちらかわかりませんから。10歳も違うのにねえ。
 タイトルの勁草というのは、風に強い草、節操、意志の堅固なことのたとえだそうです。


 
 
 
関連記事
スポンサーサイト

この記事へのコメント

トラックバック

URL :

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
カテゴリ
ミステリー (92)
ミステリー短編集 (17)
歴史ロマン・ミステリー (17)
冒険ロマン・ミステリー (14)
サイコホラー・ミステリー (15)
学園ホラー・ミステリー (14)
民俗ホラー・ミステリー (10)
政経・金融ミステリー (18)
ファンタジックミステリー (22)
近代・昭和ミステリー (14)
オカルティックミステリー (7)
青春・恋愛ミステリー (21)
医療小説・ミステリー (22)
伝奇小説・ミステリー (14)
時代人情小説・ミステリー (18)
時代冒険小説・ミステリー (19)
社会小説・ミステリー (15)
スポーツ小説・ミステリー (10)
アーティスティックミステリー (12)
海外ミステリー (28)
海外冒険小説・スリラー (17)
SF・FT・ホラー (26)
SF・FT・ホラー短編集 (13)
海外SF・FT・ホラー (17)
クライシス・パニックサスペンス (12)
警察・諜報サスペンス (29)
悪漢・犯罪サスペンス (30)
中間小説 (24)
青春・恋愛小説 (32)
家族小説・ヒューマンドラマ (31)
背徳小説・情痴文学 (14)
戦記小説・戦争文学 (19)
政経・金融小説 (14)
歴史・伝記小説 (23)
芥川賞受賞作 (19)
直木賞受賞作 (19)
文学文芸・私小説 (24)
海外小説・文学 (12)
文学アンソロジー (54)
歴史・伝記 (30)
戦史・戦記 (31)
海軍戦史・戦記 (150)
物理・宇宙 (26)
生命・生物 (37)
アンダーグラウンド (46)
事件・事故 (38)
世界情勢・国際関係 (25)
スポーツ・武術 (24)
探検・旅行記 (22)
随筆・エッセイ (30)
月別アーカイブ
プロフィール

焼酎太郎

Author:焼酎太郎
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
最新トラックバック
リンク
QRコード
QR
RSSリンクの表示