「山怪」田中康弘

 日本の山には何かがいる。
 生物なのか非生物なのか、固体なのか気体なのか、見えるのか見えないのか。
 まったくもってはっきりとはしないが、何かがいる。
 その何かは、古今東西さまざまな形で現れ、老若男女を脅かす。
 誰もが存在を認めているが、それが何かは誰にも分からない。
 敢えてその名を問われれば、山怪と答えるしかないのである。


 四半世紀以上にわたり、山関係・狩猟関係の現場を歩いている著者が全国で取材、収集した現代版遠野物語。
 取材先は、マタギや猟師を筆頭に、鷹匠、炭焼職人、野鳥観察員、登山家など幅広い“山人”たち。
 まあいろんなエピソードが載せられていますが、作為感はないですね。なんせオチがない話がほとんどです。
 いわゆる、山に舞台を限った、真実味のある不思議なお話ですな。
 信じるか信じないかは別にして、読んで損はないと思いますよ。あんまり怖くないしね、楽しい。
 ただし、ムー的なことを信じない私の場合でも、2つだけ背筋がゾクッとなるのがありました。
 白山連峰の避難小屋の話と、著者自身が体験した車のカーナビの話。
 これ、夜中に読んでトイレに行きたくなったら困ったと思います。
 避難小屋の話は似たようなのを聞いたことありますけどね、修験者の錫杖の音が小屋の外側を回って天井に飛び移り、ついに小屋の扉を開けて中に入ってくるという・・・(´-﹏-`;)
 著者自身が体験した丹波篠山のカーナビは新鮮でしたわ。取材先のマタギたちと山中で別れ、自家用車に乗った著者ですが、町の中心部に行きたいはずが、カーナビが案内したその道は・・・著者は途中で絶対におかしいと気づいてカーナビを消しましたが、もしも案内されるままに運転していたらどうなっていたのでしょうか? ホテルに着いて地図で著者は確認するんですよ。もしカーナビの言う通りの道を辿っていれば、どこに行き着いたのか。これ、それが墓地とかだといかにもで「なーんだ。つまんね」で終わったでしょうが、ネタバレなんで書きませんけど、ちょっとゾッとしましたわ、行き先読んで(;一_一)
 怖かったのは、このふたつですね。

 あとは主に狐、蛇、山での行方不明とかの話ですか。
 取材先はマタギが多いですし、雪国のほうがこういう話は広まりやすいので、舞台は東北が多いですね。
 やはり、冬の間、みんなで怖い話を喋りやすいのだと思います、昔の積雪地帯だと。
 あと、夜間のムササビなどの猟が禁止されていなかった時代もありましたから。
 夜の山ってのは、やはり怖いですよ。
 いくら怪異を信じないといっても、じゃあ、夜の山に入ってみろと言われてなかなか入れるもんじゃありません。
 結びでは著者も、山怪とは現象ではなくて心象であり、個人の脳内に浮かび上がる風景だと書いています。
 そのとおりだと私も思う。怖い怖いと思う心が怪異を生むんだとね。
 しかし著者はさらに、その脳内の風景を浮かび上がらせる何らかの源は間違いなく山にある、と書いています。
 やはり日本人にとって、山は聖域なんですよ。閉じられている印象もありますしね。
 人間の住んでいる部分はほんのわずかの平地であり、実は日本列島のほぼすべてが山地帯なのですが、多くの日本人が山に疎いのです。ほとんどその真の姿を知りません。年に何回か遭難のニュースを聞くたび、その理由がわからないくらいです。雪崩になんて遭ったことないし、クマだって見たことない。夜の山を歩いたことない。
 つまり、現代の日本人は、山をまったく知らないといっても過言ではないのです。
 ですから、本書を読んでも、軽々しく「ムーかよ」と言えないと思います。
 本書に載っていること、その大半は科学的に説明できることでしょう、がしかし、あなた自身が何回か夜の山に入って体験してみないかぎり、それを絶対にないとは言い切れないのもまた確かだと思います。
 昔はオオカミがいたせいもあったでしょうし、山賊がいた時代もあったでしょう、そして電気がない夜の峠を越えるのは辛かったでしょうが、本能的に、日本人は太古から山を敬い、畏れているのではないでしょうか。

 私はムー的なことを信じない人なのですが、実はひとつ山について怖い思い出があるのですよ。
 といっても、日本ではなくて、中国の雲南省とラオスの国境のジャングル地帯でのことなんですけどねえ。
 そのときは人民軍の監視所でもいいから逃げ込みたいと思いましたわ。いやマジで。
 まあでも、あんまりこういう話を書くのは良くないと思うので、やめときましょう。


 
 
 
 
 
 
 
関連記事
スポンサーサイト

この記事へのコメント

トラックバック

URL :

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
カテゴリ
ミステリー (92)
ミステリー短編集 (17)
歴史ロマン・ミステリー (17)
冒険ロマン・ミステリー (14)
サイコホラー・ミステリー (15)
学園ホラー・ミステリー (14)
民俗ホラー・ミステリー (10)
政経・金融ミステリー (18)
ファンタジックミステリー (22)
近代・昭和ミステリー (14)
オカルティックミステリー (7)
青春・恋愛ミステリー (21)
医療小説・ミステリー (22)
伝奇小説・ミステリー (14)
時代人情小説・ミステリー (18)
時代冒険小説・ミステリー (19)
社会小説・ミステリー (15)
スポーツ小説・ミステリー (10)
アーティスティックミステリー (12)
海外ミステリー (28)
海外冒険小説・スリラー (17)
SF・FT・ホラー (26)
SF・FT・ホラー短編集 (13)
海外SF・FT・ホラー (17)
クライシス・パニックサスペンス (12)
警察・諜報サスペンス (29)
悪漢・犯罪サスペンス (30)
中間小説 (24)
青春・恋愛小説 (32)
家族小説・ヒューマンドラマ (31)
背徳小説・情痴文学 (14)
戦記小説・戦争文学 (19)
政経・金融小説 (14)
歴史・伝記小説 (22)
芥川賞受賞作 (19)
直木賞受賞作 (19)
文学文芸・私小説 (24)
海外小説・文学 (12)
文学アンソロジー (54)
歴史・伝記 (30)
戦史・戦記 (31)
海軍戦史・戦記 (150)
物理・宇宙 (26)
生命・生物 (37)
アンダーグラウンド (46)
事件・事故 (38)
世界情勢・国際関係 (25)
スポーツ・武術 (24)
探検・旅行記 (22)
随筆・エッセイ (30)
月別アーカイブ
プロフィール

焼酎太郎

Author:焼酎太郎
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
最新トラックバック
リンク
QRコード
QR
RSSリンクの表示