「重巡愛宕戦記」小板橋孝策

 第二艦隊旗艦として活躍した重巡洋艦「愛宕」の戦記。
 構成はちょっと変わっていまして、著者が「愛宕」に配属されたのは、ラバウル港外で空襲により傷ついた「愛宕」が修理のために内地に帰投した昭和18年11月15日のことであり、太平洋戦争開戦してからの同艦の戦歴は、このとき著者と交代するように退艦した高橋武士一等水兵(昭和17年11月二等兵曹)の詳細な記録に依っている点です。
 つまり、本書は小板橋孝策さんの著したものですが、その記録はほぼ高橋さんの付けた記録が元になっています。
 高橋さんは艦長伝令の要職にあり、「愛宕」は旗艦であったために戦闘の模様及び艦隊司令部、艦長ら艦内指揮系統の行動はもちろん、海域での戦況まで艦橋で目にし耳にした記録をつぶさに残しておられたようです。
 当時の過大戦果ですね、事実誤認によって戦況が緩くなっていく様がよくわかります。
 海戦などでこちらにいい結果がでると、「愛宕」では艦内スピーカーで戦況を知らせており、兵隊たちが「やった!」と喜び勇むわけですが、戦後判明した史実では、沈んだはずの敵艦は生き残っているのですね。
 このために、調子に乗ってやらずもがなの深追いや反転をしたことも多かったのです。
 ただ、「愛宕」にはハワイ生まれの二世である福島勇という軍属が乗り込んでおり、敵無線の傍受解読をしていましたが、アメリカ側だって大本営のように戦果を拡大して発表していたようです。
 あと、高橋さんの日記を詳細に載せられていることで、改めて感じた点、それは重油補給の大事さと多さ。
 「愛宕」はミッドウェー海戦後、ソロモンを主戦場として赤道を何度も往復しているわけですが、これほどまでに何度も給油作業をしていたのかと、当たり前のことなんですが、気にしたことがありませんでした。
 とてつもなく、油を食うのですね、大艦は・・・そりゃ戦艦なんて動き回れないわ。
 しかも、日本の場合、燃料を積む場所が限られているし、給油船がボロでしょう?
 太平洋という大海の島嶼戦を戦うにおいて、著しく行動が制限されていますわ。勝てないわけだわ。これでは。

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 基準排水量13.550トン 速力35.5ノット 20センチ砲10門 61センチ魚雷発射管16門 搭載機3

 さて「愛宕」ですが、南方進出作戦を展開した近藤信竹中将麾下の第二艦隊旗艦として開戦を迎えました。
 同じ重巡である高雄、摩耶と戦隊を組んでいたようですが、旗艦なのであまり派手な活躍はしていません。
 旗艦であるおかげで映画上映は頻繁に行われましたが、艦隊をまとめる信号当直は忙しかったようです。
 しかしそれでも、6ヶ月間に及ぶ南方作戦で、昭和17年3月にはジャワ沖で敵軽巡を1隻撃沈含む商船や護衛艦など撃沈拿捕18隻を数え、500名を超す捕虜を収容しました。
 「愛宕」の艦長は、伊集院松治大佐。この方、元帥伊集院五郎男爵を父に持ち、男爵位を襲爵していました。
 貴族なわけですが、性格は豪放磊落で、士官に厳しく兵隊には優しく、ユーモラスな好人物であったようです。
 駆逐艦からのご機嫌伺いの信号に、「おかげさまで、ピンピン!」と返してみんな爆笑したとか。
 
 戦勝気分で意気揚々と横須賀に帰投した「愛宕」ですがこのときが、最大の華でした。
 転換のミッドウェーでは、直接戦闘海域には進出していませんが、出撃しています。
 この後、昭和17年8月に柱島から出撃した「愛宕」は、果てしなきソロモンの戦いに没頭していくのです。
 ソロモンを4度見たという「愛宕」ですが、最も特筆すべきは第三次ソロモン海戦の戦闘です。
 昭和17年11月14日、ガ島砲撃の任務を果たすためガ島とサボ島の間に侵入した「愛宕」は4発の魚雷を間一髪かわすと、わずか7千メートル先に敵新型戦艦を発見、熾烈な戦闘を展開しました。このとき「愛宕」は20センチ砲を60発射撃、魚雷を19本発射しています。撃沈確実かと思われた敵戦艦ですが戦後沈没していなかったことがわかり、またこの戦闘で前日の「比叡」に続き戦艦「霧島」が撃沈されました。

 「愛宕」の名物としてならした伊集院艦長は昭和17年12月1日付で退艦。
 後任の中岡信喜大佐は昭和18年11月5日のラバウル港空襲で戦死し、荒木伝大佐が新艦長となりました。
 このとき降りたのが高橋さんで、新しく乗り組んだのが著者です。
 著者は「愛宕」がレイテ沖海戦に出撃しパラワン水道で敵潜の魚雷を受けて沈むまで運命を共にすることになりますが、残念ながらこのときの模様は詳述されておりません。


 
 
 
 
 
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