「飛龍天に在り 航空母艦『飛龍』の生涯」碇義朗

 日本海軍を代表する中型航空母艦「飛龍」。
 昭和14年7月5日に竣工してより、支那事変、ハワイ奇襲、南方作戦、インド洋作戦に参加、そして運命のミッドウェー海戦において日本主力の三空母が沈む中、孤軍奮闘して敵「ヨークタウン」と刺し違える形で昭和17年6月6日に沈没するまでを、飛龍乗組員の豊富な証言を元に克明に追った戦記です。

 碇義朗さんの本は他にも読みましたが、これが一番引き込まれたかも。
 ミッドウェー海戦の模様を読むのは、あまりにも情けないのと腹が立つので嫌いだったのですが、初めてじっくりと読むことができました。「赤城」「加賀」「蒼龍」が沈んだ後に、まるで凪というか台風の目のように飛龍が個艦で奮闘していた時間が長かったことに驚きました。12時間くらいあったんですね。私は2,3時間くらいの差で飛龍もやられたのかと思っていました。
 南雲や源田実などエルランゴップ級の知力2程度の愚将のせいで、絶対勝てる戦を負けたのだと思いこんでいましたが、彼らも一生懸命やって不運が重なりすぎて負けたのだとわかりました。まあ、それでもバカには間違いないけど。
 飛龍の艦長である加来止男大佐(第4期航空術学生)も、二航戦司令官の山口多聞少将(海兵40)も、南雲司令部が兵装選択でバタバタしているのを横目で見て「せっかく陸用爆弾を付けたのだからこのまま行ってはどうか」と具申したのは有名な話ですからねえ。でも著者は、仮にその通り行ってても目標を見つけられなかっただろうと書いていましたね。
 索敵が甘すぎたのです。激甘。根本的に舐めすぎていたのだと思います。
 しかしまあ、アメリカが勝てたのはものすごい偶然の重なり具合といいますか・・・
 未来から過去を変えるために操作されたのではないかと思えるくらい、おかしな戦闘です。
 戦争は錯誤(エラー)の連続であると言われますが、これはおかしいでしょ。
 まったく当たらなかったアメリカの航空機の攻撃が急に当たりだしたのはなぜでしょうねえ。
 珊瑚海海戦のときに日本の艦爆隊が間違って敵空母に着艦しそうになったのを教訓として、ミッドウェー作戦を前に日本の空母の甲板には大きな日の丸が描かれるようになって、それがアメリカの艦爆隊の爆撃照準になってしまったそうですが、それだけで技量の未熟なアメリカの急降下爆撃があれだけバシバシ命中するものなんでしょうか。

 たった1隻残り、果敢に第一次、第二次攻撃隊を送り出して米空母「ヨークタウン」を航行不能に追いやった飛龍。
 日本側の空母の中では乗組員のチームワークが抜群で、ダントツに飛行機収容時間が短く、それが戦闘能力の高さに繋がっていたといいます。
 猛将山口多聞司令官を筆頭に、仲間を沈められて憤怒に燃えていたことでしょう。
 それが名指揮官の判断を誤らせたとは思いませんが、結局、第三次攻撃隊の出発を薄暮に遅らせたことで、先に波状攻撃を受けることになってしまいました。この時点で逃げるという選択肢もあったと私は思う。
 攻撃を遅らせるのならば逃げればよかった。どうせ寄せ集めの機体しかないのですから。
 結局、今度は逆にヨークタウンの仇を討たれることになってしまいました。
 飛龍だけを狙ったあれだけの攻撃は避けることはできないでしょう。
 4発の1000ポンド(450キログラム)爆弾が命中したことが、飛龍の命取りになってしまいました。
 日本の空母は、アメリカのように防御飛行甲板ではありません。
 長期戦に備え、米俵をあちこちに積んでいたこともアダになりました。米俵に火がつくとくすぶって消えないのです。
 しかし、本書を読んで一番驚いたのは、上と中はめちゃくちゃにされましたが、実はそれでも底にあった飛龍の8缶あるボイラーのうち5缶は生きていて、28ノットで航行することが可能であり、帰るつもりで機関員も頑張っていたのです。
 それが艦橋と機関室の連絡が遮断されてしまい、機関室の声が届かなかったために、機関室は全滅したもはや飛龍もこれまでと幹部が早合点してしまったというのですね。
 飛龍は内地に帰還できた可能性が高いです。返す返すも無念だねえ。
 今更飛龍が残っていたとしても、いずれやられてはいるでしょうが・・・司令官も艦長も死なずにすんだわけですから。
 死んだと思われて捨てられた機関員は、総員退去後も機関長相宗邦造中佐以下百人近くいたそうです。
 沈没寸前、彼らは脱出しましたが、生き残ってカッターで漂流できたのは39人。
 この後のことは本書に一番登場して証言し、著者が本書を書くきっかけにもなった機関長付の萬代久男少尉さんが丸の別冊に書いているそうですが、彼らには15日間漂流し、3年半の捕虜生活を送るという過酷な運命が待っていたのです。
 決死の出撃をさせた航空隊の後を追うつもりだったのでしょうが、加来さんも多聞さんもちょっと死に急ぎ過ぎましたね。


 
 

 
 
 

「ツチノコ 幻の珍獣とされた日本固有の鎧蛇の記録」木乃倉茂

 昭和17年8月21日、長野県埴科郡西条村の山中(上田市よりの標高五百メートルの丘陵地)で、軍(海軍)による大規模な施設工事の最中、掘り起こされた土中から奇妙な生き物が発見された。
 現場で作業をしていた者が、この謎の生物を捕獲。
 報告は鉄道省の役人である山形光朋から、工事をおおもとで管理していた海軍省松代鎮守府に報告され、海軍直属機関で生物化学兵器の研究をしていた大日本理化学研究舎にこの生物は託されることになった。
 本書は、野槌(ツチノコ?)とされるこの謎の生物の、昭和17年8月21日から昭和18年10月21日までの、約一年間にわたる観察記録である。
 観察者は、著者の祖父であり大日本理化学研究舎の研究者だった木乃倉佐之助。
 生態観察、採毒しての成分調査、死後の解剖の詳細など。写真も有り。

 長さ30センチのビール瓶状の形態、最後部にちょろっと尻尾が伸びています。
 ウロコにはマムシのような銭形の斑紋が見られます。
 誰がどう見ても、幻の生物であるツチノコを想像するでしょう。
 木乃倉佐之助によって野槌と名付けられたこの生物の観察記録からその特徴を書き出すと、
 
1,土の中で生活する。飼育槽に盛り土するたびその最深部まで潜る。
2,土中で生活するため眼は退化して小さい。しかし、その眼は蛇のものでトカゲのような瞼はない。
3,カレイやヒラメが泳ぐように体を波打たせて移動する。まれに尺取り虫のようにも進む。
4,60センチほど跳躍できる。
5,性格は極めて臆病。まれに飼育槽の土中から掘り起こされたとき、怒って威嚇行動。このときは俊敏。
6,1年間の観察で1回だけ、体全体を風船のように膨らませて威嚇してきたときがある。
7.ミミズを食す

 さらに、木乃倉佐之助と同じ大日本理化学研究舎の研究者でマムシやハブなどの採毒をしたことがある益岡岩三郎によって、野槌の毒性の成分調査がなされました。
 それによると、マムシと同じポロペプチドトキシン、プロテアーゼなどタンパク質破壊酵素が含まれていたほか、マムシには含まれないムスカリン、リゼルグ酸ジエチルアミドという強い幻覚作用をおよぼす物質が検出されました。
 
 これらのことから、1年にわたり野槌を飼育・観察し記録を続けた木乃倉佐之助は、野槌は日本固有のクサリヘビの一種であると結論づけました。
 理由はクサリヘビ科のマムシにもある銭形の斑紋が野槌にも認められること、毒の成分がマムシと一部同じであること。
 昭和18年9月17日に飼育槽で死んでいることが発見された野槌は解剖され、骨格標本にされました。
 しかし、昭和19年2月に大日本理化学研究舎が解体されると、骨格標本はいったん東京の木乃倉佐之助の知人に預けられましたが、東京大空襲によって焼失したと考えられています。

 うーん。
 なんとも云えませんねえ。
 戦時中とはいえ、科学者がここまで調査したことが闇に埋もれたままだったというのが解せません。
 確かに、731部隊とも関係があったであろう生物化学兵器を研究していた大日本理化学研究所の研究者であったと戦後名乗り出ることは難しかったことは想像できるのですがねえ。
 毒性の成分調査については、別の本で当時でも蛇毒研究が進んでいたことを知っているので「昔にそんなちゃんと調べることができたの?」という疑惑は、私は持ちません。
 せめて骨格標本が残っていればなあ。
 読む限りでは、アオジタトカゲではないと思いますが・・・


 

「しろいろの街の、その骨の体温の」村田沙耶香

 これは・・・すごかったです。
 「コンビニ人間」読む前に挟もうと思って読んだんですが、とてもローテーションの谷間ではありません。
 主戦格ですね、エースですよ。
 こんなすごい小説書ける人が36歳までコンビニでアルバイトしてるとは、世の中はほんと奥が深くて面白い。
 これこそ芥川賞じゃないの、コンビニ人間はこれより凄いのでしょうか。
 背筋が震えるくらいレベルの高い青春文学の傑作でした。

 あらすじ。
 主人公は谷沢結佳。彼女の小学校4年生から中学校2年生までの物語。
 舞台は、光ヶ原ニュータウン。結佳が小学生のときは、どんどん家が建って街が勢い良く広がっていたのですが、彼女が中学生になると日本の景気が悪くなって、一転街の成長は止まり、工事途中のまま残された部分が目につくようになります。
 それを「しろいろの街」と骨にたとえています。
 そして骨とは、子供から大人へ成長している途中にある結佳のことでもあり、その周辺のキャラクターのことでもあります。
 年代設定は、携帯が出てこないということは、バブルを挟んでいるということなんでしょうね。
 つまり、作者の実年齢(1979生まれ)に重なっているということで、これだけ生々しい雰囲気なのかな。
 結佳の周辺の人物では、小学校では仲が良かったのですが中学校では疎遠になってしまう信子と若葉。
 そして同じ習字教室に通っていて、結佳が危険な想いを寄せるようになる伊吹陽太。
 この3人が、あまりにも自意識が肥大して息苦しい結佳の青春を醸し出す存在としてくっきりと描かれています。
 中学校の2年E組では、女子の間に5グループの階層があって、若葉の属する見目麗しい上流階級、その下2つに元気で明るい女の子たちのグループ、そしてその下に結佳の属する地味で大人しい子のグループ、最底辺に信子の属するキモいと相手にされないグループが存在します。小学校ではつるんでいた結佳と若葉、信子がいかにして分かれていったか、彼女らはどうやってクラス内で処世をしていくか、そしてみんなから好かれてクラスの女王様からあからさまに思いを寄せられている伊吹陽太とE組の空気でしかない結佳の禁断の関係の行方はどうなるのか・・・ここらへんが最大の読みどころではないかと思います。

 いやあ、息苦しかった。
 女子は大変だねえ。めんどくさいですねえ。
 これほどまでじゃなくても、似たようなことはあるのでしょうねえ。
 私は貧乏で昼ごはんが食えなかったので、昼休みは体育館の横の水飲み場っていうの、あそこにずっといました。
 いじめられることはなかったですが、性格が難しくできているのであまり友達はいませんでしたねえ。
 夏祭りとか、私服がジャージしかなかったので、浴衣や甚平を着ているみんなから誘われることはありませんでした。
 それでも好きな子はできるようで、次から次にフラレていきました\(^o^)/
 今から思えば、楽しかったです。生きてさえいればどうにかなるのでね、金も。
 ですから、結佳が最後にカーストの外に出たときの解放された感がわかるなあ、少しは。
 クラス全体の価値観に縛られているうちは、自由になんかなれっこないですよ。
 底抜けの貧乏かバカ、あるいは陽太のように天然素材(実はラストで正体が知れる)でなければ、クラスの権力者に歯向かわない限りクラスという檻から逃げ出すことはできません。
 もちろん、すべてわかったうえで立ち回れる子もいるのですが、まあ、大体は大人になってみなければわからないことだらけですね。彼らにとっては、その街のその学校の中が世界のすべてなのですから。陽太が結佳に街の外を見せようとした意味、そこにありますね。
 いい小説でした。


 
 
 

 
 

「透明カメレオン」道尾秀介

 数年ぶりっすかね、道尾秀介の本。
 あれなんだっけ虫のオチのやつ、向日葵がなんたらかんたら?以来ずっと読んでたんですが、この方だんだん売れるにしがってぬるくなってきたでしょう、月9の原作やった頃からくらいでしたか。
 面白くなくなったといいますか、合わなくなってきたので読むの止めてました。
 全盛期は、ほんと貧乏な女の子書くのが上手くてね、リボンが買えないからプレゼントを針金でラッピングしたみたいな話があったんですが、感動したもんですよ。題名はすっかり忘れましたけど。
 作家自体の人間が暗そうだし、ジメッとした感じの小説が似合うと思うんですが、もう売れたので自分が書きたいものを書けるようになったからでしょうね、ミステリーにこだわらず、軽くて明るそうな小説書いていらっしゃいます。
 それが私なんかに言わせると、ネクラが無理に躁状態になってはしゃいでるみたいな感じがして、痛いんです。
 まあ、云えた義理じゃあ、ないのですがね。

 あらすじ。
 浅草にあるバー「if」。
 深夜ラジオのパーソナリティをしている桐畑恭太郎は、毎晩ここに通う。
 美人で包容力のある輝美ママ、そしてカウンターには常連客であるキャバ嬢の百花、ゲイバーのホステスをしている超ハンサムなレイカ、害虫駆除会社の社長兼営業マン兼事務員である石之崎、仏壇職人の重松が今日も彼を迎える。
 ラジオで喋っているときと違い、恭太郎はここでしか女性と会話できない。
 マイク越しの渋い声とは裏腹に、彼の容姿はチンチクリンだ。34歳でいまだに童貞である。
 そんな彼が、ひと目で恋に落ちた。
 雨の降る夜、ifに突然ずぶ濡れで入ってきた女性に・・・
 彼女の名は三梶恵、24歳。恭太郎のことを「キモイ」と言った初恋の相手に似ていた。
 恭太郎の恋を叶えようと頑張る常連客たち。
 しかし逆に企みがバレて、何やら謎がありそうな恵に、貸しを作ってしまう。
 恵の謎、それは住宅メーカーを経営していた父が、悪徳廃棄物処理業者に騙され、会社が倒産して首吊り自殺したことだった。彼女は、父の敵を討つべく、悪徳産廃業者への復讐を計画していたのだ。
 恭太郎はじめifの面々は、ヤクザ風の男を追いかけたり追いかけ回されたりと、危ない橋を渡りながら立ち回りを演じることになるのだが・・・

 なんだか既視感のある物語でして、何度も読んでいないことを確認しながら読みました。
 まあ、2015年の刊行ですが、新生道尾秀介の範疇にモロはいる作品ですね。
 重くてジメッとしたところがなくて、ポップな調子で進みます。
 道尾秀介はあんがい女性を描くのが巧く、恵はキャラクターとして生き生きしていました。
 ですから、彼女が登場してからのしばらくは楽しく読むことができました。
 反対に、恭太郎の設定は不自然でしたね。いくらチンチクリンでも34歳で童貞はないわ。
 不自然なのは恭太郎だけでなく、他にもおかしかった。ラストもドタバタしたまま終わっちゃたし。
 新聞連載だったそうですが、ほんと、たったこれだけの単純なストーリーで、これだけの分厚いボリュームに膨らませていいものなのかと思いました。
 またしばらく道尾秀介の作品は休憩ですなあ。


 
 
 

 

「赤へ」井上荒野

 第29回(2016年度)柴田錬三郎賞を受賞した短編集です。
 20~30ページほどの短編が十篇。
 私、はじめミステリー小説集かと思って読んでました。井上荒野なのに。
 あまりにも不穏な雰囲気があるのと、読後にザラッとした舌触りが残ったので。
 まあ、読み進めていけば少なくとも作者がミステリー小説を意図したわけではないことがわかるのですが。
 どうして不気味に感じたかというと、それぞれ掲載誌も書かれた年代も違うのに、十篇の物語には共通したテーマみたいなものがあって、そのテーマというのが『死』なんですね。
 それに気づいたとき、ああ、なるほどなあ、と。
 読む姿勢に一本筋が通ったというか、作品の捉え方が理解できました。
 ここに集められている小説たちの中心にあるのは“死”であり、それによって翻弄されたり影響されたりする残された人間の心の動き方を表現した物語なのです。
 相変わらず、運筆がすごいというか小説が巧い。
 プロの作家であることを認識させてくれる、数少ない方のうちのひとりです。
 何が巧いって、余白がいいわ、井上荒野は。
 すべて書いていくのではなくて、すぽんと説明すべきところを抜かしているのですが、その部分を読者は自分で埋めなければなりません。その作業が読み手にとっては醍醐味といいますかね、まあ、面白いわけでして。
 やはり、井上荒野は他とは違うと改めて思いましたねえ。
 実力者です。

「虫の息」
 市立体育館のプールにやってきた、ふたりの老婆。81歳と82歳、太った方はイクちゃんといい、痩せたほうは虫の息と呼ばれていた。若い頃、ふたりはサヨクケイの劇団員だったらしい。やがて騒動を引き起こす彼女たちを、受付でバイトしている大学生の女の子と、彼女に憧れてプール監視員をしている同じ大学の男子の視点から捉える。
「時計」
 19年間秘密にされてきた別荘の秘密。19年前に病気で死んだ双子の妹の死の真相。
 どこが怖いって、十数分間くるっていたという振り子時計の、十数分間のくるいにラストで気づいたのが凄いわ。
 管理していた鈴子はわざと放っていたのではなくて、あまりそこに行きたくなかったのではないですか?

「逃げる」
 赤坂のレストランでウェイターと客という関係で知り合った咲子と広一郎。それ以来2年間不倫関係を続けてきたが、一月前に通り魔事件があって、広一郎の妻が刺殺された。一ヶ月後、連絡をくれた広一郎は・・・
 不倫というのは不倫だから燃えるのです。不倫でなくなれば燃料はありません。しかもこのようなオチでは、ねえ。
「ドア」
 主人公はバーで働いている52歳のゲイ、香津実。元々はひとりで飲みにきていた者たちが、たまたま隣り合ったことで仲良くなってグループとして組成され、カウンターで和やかにやってるようなバー。あるとき、そのグループの一員だった45歳の税理士の音沙汰がふっと消えてしまった。香津実は偶然拾ったハガキを手がかりに、彼の行方を追うが・・・
 おそらく仕事には就いていなかったと思うんですね。
「ボトルシップ」
 小説家の植村さゆりは、いきなり薔薇の花束を持ってきた男性にひるむ。男は衣田といい、さゆりと知り合いだったHの遺言で花束を持ってきたという。さゆりは15年前に癌を克服した。入院していてHに知り合ったという衣田も癌手術を終えたばかりだった。2週間後、衣田はさゆりに再び会いに来る。
 Hからの電話、あれは衣田ですね。
「赤へ」
 42年間暮らした一軒家を売り払い、ミチは高齢者向け介護付きマンションへ引っ越すことになった。娘婿だった庸一郎に車で送ってもらう。娘の深雪が死んで1年。深雪は庸一郎と35歳で結婚し、ミチと同居3年目で自殺した。
 互いを疎ましく思いながらも、死の責を分かち合うふたりだったが・・・
 表題作の出来はすこぶるよし。味わい深い逸品です。
「どこかの庭で」
 引っ越してきたばかりの新築の一軒家には庭があり、織絵はガーデニングに精を出す。庭造りの教科書役は、素人の主婦がやっている庭ブログ。しかし、ブログ主は病に冒され、しだいに更新されなくなってゆく。
 どこかの庭でというタイトル、夫と知らない女性が独立起業しようとしている内容など、すべてが調和した秀逸な作品。
「十三人目の行方不明者」
 6年前に洪水で行方不明になったと思われていた勇介が突如、還ってきた。護は、勇介の妻だったあゆみとすでに付き合っていた。失踪して7年経てば離婚ができる。あと1年というところで・・・なぜ、あいつは還ってきたのか?
「母のこと」
 膵臓がんが見つかった83歳の母。死にたくなくてあらゆる手をつくして闘病した父とは違い、まるで死に寄り添うように、無抵抗で優しく死んでいった母への想い。
 これはこれまでの物語と種類がまったく違うといいますか、作者の随筆でしょうか。
「雨」
 志帆子の中学2年生になる娘の友達が死んだ。噂によれば、イジメを苦に飛び降り自殺したらしい。
 志帆子は偶然、娘のLINEの履歴を見てしまう。そこには、自殺した子を蔑み、けなす言葉が書き連ねられていた。
 ありがちな話をいかにもプロらしい手際でまとめたこの作品が一番好きかもしれません。
 

 
 
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